調査・レポート

「情報モラルの授業による児童・生徒の意識変化調査報告書」を公開

2024.06.20

    情報モラル授業前後でSNSトラブル対処方法の理解度が21%上昇するなど「情報活用」、「情報モラル」それぞれポジティブな変化を確認

     

    一般財団法人LINEみらい財団(以下、LINEみらい財団)は、GIGAスクール構想※1の推進を契機に、児童・生徒の学校での学びにおけるネットの活用が重要な要素となる中、情報モラル教育の重要性や関心も高まっており、その教育効果を定量的に把握すべく、GIGAスクール端末を用いた情報モラル教育の効果を測定する調査を実施しました。その結果をまとめた調査報告書を公開します。

    本調査は、LINEみらい財団が提供する活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」を使用した情報モラルに関する授業実施前後での児童・生徒の意識変化を把握し、情報モラル教育の効果を測定するとともに、情報活用能力の育成支援などに資する情報を提供し教育現場へ寄与することを目的に実施しました。

    調査は9校の小学校における児童590名、7校の中学校における生徒491名を対象に授業を実施し、授業前後に「情報活用」や「情報モラル」に係るアンケートを児童・生徒に行い、意識の変化等について、分析結果をまとめました。また、考察では効果的であった授業(指導)のポイントをまとめています。

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20240620_image0.jpg

    報告書データPDFダウンロード(全76ページ)

     

    ■調査サマリー

    (1)授業前後で、「情報活用」、「情報モラル」それぞれの調査項目で理解・認識の上昇が見られ、ポジティブな変化を確認

    (2)小学生のSNSトラブルに関する理解度が全体で21%上昇、私物端末を所有しない児童でも約29%上昇し、私物端末の有無に関わらず効果を確認

    (3)中学生は、端末を利用した学習について「タイムマネジメント(時間管理)意識」へ影響(約20%上昇)

    (4)授業後に「ネットのトラブルは自分にも起こるかもしれない」と思った小学生が83.1%、ネットトラブルの「自分ごと化」に効果

    (5)授業で学習した内容について、家庭への共有ニーズ(小学生約70%、中学生60%)があることを確認

     

     ■調査概要

    ・調査対象

    小学校4年生~6年生(9校、590名)
    中学校1年生~3年生(7校、491名)

    ・調査期間

    2023年12月14日~ 2024年3月11日

    ・調査手法

    「GIGAワークブック」を導入している自治体・学校で教材を使用したオンライン授業を実施。授業前後での児童・生徒の意識変化をウェブアンケート(一部紙アンケート)にて調査。

    ・使用教材

    「GIGAワークブック」の中から、小学生向けでは、SNS・チャットやコミュニケーションに関する内容、中学生向けでは、セルフマネジメントや端末の使い過ぎに関する内容の授業を選定して実施。

    小学生向けテーマ 「インターネットを使うときに気を付けること、考えること ~SNS編~」

    1. 上手なチャットの使い方を学ぼう
    [情報活用] 「画像をグループで共有したい」、「グループで新しいアイデアを考えたい」、「自分の気持ちを伝えたい」、「前の発言をふりかえりたい」といった、やりたいことについて、チャットと対面でどちらが効率的かを考える。また、チャットと対面の特性を学ぶ。

    2. 相手に伝えるときには
    [情報モラル] メッセージを口頭で伝えるのか、メッセージで伝えるのか、また文字のみなのかイラスト付きなのかという違いに対し、自分がどのように感じるかを考える。また、友達と感じ方を比べ、感情が伝わりづらいというネットの特性を学ぶ。

    3. チャットで議論するときは
    [情報モラル] グループチャットを使って議論するときに一番イヤだなと感じることを選び、友達の意見を聞き、人によって感じ方が異なることを知る。また、全員でチャットのマナーやルールを決めておくことを学ぶ。

    4. 変なコメントが書き込まれたら?
    [情報モラル] グループチャットに誰かの悪口が書き込まれた場面を想定、どのように対応するべきか友達と意見を話し合う。また、チャットなどでトラブルが起きてしまったときには、先生や家族に相談することも学ぶ。

    中学生向けテーマ 「インターネットを使うときに気を付けること、考えること ~セルフマネジメント編~」

    1. 学習で上手に活用しよう
    [情報活用] タブレットなどの端末で、時間管理アプリなど自分が行っている学習での活用方法やこれからやってみたい活用方法を書き出し、友達と共有する。また、次々と登場する学習ツールやサービスなどの活用方法について学ぶ。

    2. タイムマネジメントを身に付けよう
    [情報モラル] 時間を管理する力を学ぶ。「自分の名前を10回書く」、「掛け算の7の段を書く」などといった具体的な行為についてかかる時間を予想し、実際に計測する。また、タイムマネジメントを考える際の注意点などを知る。

    3. 使いすぎてしまう時は
    [情報モラル] スマホやタブレット、コンテンツやサービスを使いすぎてしまう理由を振り返り、友達と意見を交わす。また、どうしたら使い過ぎを防ぐことができるかを考察し、改めてタイムマネジメントの大切さに注目する。

    4. クライシスマネジメントを身に付けよう
    [情報モラル] 「ネットに自分の写真が勝手に掲載された」、「ネットを見ていたらお金を請求するサイトが突然開いた」といったトラブルについて対応できるかどうか、またどう対応したらいいいのかを考え、友達と話し合う。危機管理能力について学ぶ。

     

    ■調査項目

    第1部 「GIGAワークブック」スタンダード(小学校4年生~6年生対象)

     回答者プロフィール / 環境

     授業前後の意識変化

     授業後の気づき / 評価

     

    第2部 「GIGAワークブック」アドバンスド(中学校1年生~3年生対象)

     回答者プロフィール / 環境

     授業前後の意識変化

     授業後の気づき / 評価

     

    ■調査結果データ(抜粋)

    本調査では小学生、中学生それぞれの授業内容に即した「情報活用」、「情報モラル」に関する7項目について、授業前と授業後で同じ質問をしました。結果、すべての項目で統計的に有意な差が確認でき、ポジティブな変化を確認できました。

     

    [注目ポイント①] 情報モラルの効果

    小学生のSNSトラブルに関する理解度が、全体で21%上昇、また「私物端未を所有しない児童」 については約29%上昇し、私物端末の有無に関わらず効果を確認。

     

    グラフ1:チャット・SNSで嫌だなと感じたときの対処方法を知っている(小学生4~6年生全体)

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20240620_image1.jpg

     

    グラフ2:チャット・SNSで嫌だなと感じたときの対処方法を知っている(私物端末所有有無別)

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20240620_image2.jpg

     

    グラフ3:チャット・SNSで嫌だなと感じたときの対処方法を知っている(学年別)

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20240620_image3.jpg

     

    なお、中学生では「ネットのトラブルに対応できる」と回答した生徒が、授業後に28.5%増加。

    グラフ4:ネットトラブルに対応できる(中学生1~3年生全体)

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20240620_image6.jpg

     

    [注目ポイント②] 情報活用の効果

    小学生は、チャット・SNSと対面を使い分ける方法の理解が全体で約35%上昇、中学生は、端末を使った効果的な学習方法の理解が約15%上昇。

     

    グラフ5:チャット・SNSと対面を使い分ける方法を知っている(小学生4~6年生全体)

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20240620_image5.jpg

     

    グラフ6:端末を使った効果的な学習方法を理解している(中学生1~3年生全体)

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    ■考察サマリー(明星大学 教育学部 教授 今野貴之氏)

    (1)生徒が自ら情報を選び、解釈し、表現する過程を「体験的に学べる授業内容」であったことが「思考力、判断力、表現力」と「学びに向かう力・人間性など」の育成に影響を与えた。

    (2)SNSトラブルに関するシナリオを通じて、「自身の日常生活で直結する」ことを認識できたことで、児童・生徒の「自分ごと化」の意識が促進された。

    (3)従来の情報モラル教育の多くが知識を伝達する「伝達主義的」であったのに対し、本授業では生徒が主体的に学び、考え、問題解決のプロセスを経験しながら学びとり、教師は必要に応じて助言や援助を行う「構成主義的な授業」であった。自動的に児童・生徒の変容が見込まれるのではなく、授業における指導者(教師)自身の役割や価値観を構成主義的に変え、「児童・生徒の伴走者」となるような立ち位置で授業を実施することが、これからの教育現場での成功の鍵となり得ることが示唆される。

    (4)授業はすべてオンライン講演で行われたが、オンライン授業においても一定の効果を確認できた。今回の授業が伝達主義的な内容でなく、児童・生徒が自発的に学ぶものであるからと考察される。

     

    など、効果的であった授業(指導)のポイントが挙げられています。※考察詳細は調査報告書「考察・提言」にて記載

     

    ■報告書データ

    PDFダウンロード(全76ページ)

    https://vos.line-scdn.net/linemiraicorp/LMF_20230612_image7.jpg

     

    ■活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」について

    LLINEみらい財団は、GIGAスクール構想の中でより重要となっている「情報モラル」と「情報活用」の育成や向上を図るため、LINEみらい財団が開発した活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」をソフトバンク株式会社、LINEヤフー株式会社と共同で展開しています。 

    本教材は「ビギナー(小学1~3年生向け)」「スタンダード(小学4~6年生向け)」「アドバンスド(中・高校生向け)」に分かれており、児童・生徒の発達段階にあわせて活用いただけます。また、本教材では、各学校の状況に応じて柔軟に時間割の中に組み込めるよう、45分で情報モラルを学ぶコンテンツと、15分で活用スキル等を学ぶコンテンツを用意しています。

     

    「GIGAワークブック」の詳細についてはこちらのページをご確認ください。

    https://kids.yahoo.co.jp/edu/moral

     

     

    ※1 文部科学省「GIGAスクール構想について」https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_0001111.htm