調査・レポート

「SNS東京ノート」効果測定およびネット利用実態把握調査結果報告(令和元年度)

2020.11.04

LINE株式会社(所在地:東京都新宿区、代表取締役社長:出澤剛)では、2016年3月30日に、児童・生徒の情報リテラシー・情報モラルの向上およびコミュニケーショントラブルを防止することなどを目的として、東京都教育委員会と「SNS東京ルール」共同研究プロジェクトの実施にかかる協定を締結いたしました。そして、2017年3月23日に情報モラル教育教材「SNS東京ノート」(以下、「本教材」といいます)を共同開発し、毎年更新を重ねながら都内公立学校の全児童・生徒向けに配布しています*1

*1:詳細はプレスリリースをご参照ください

 

LINE株式会社は、CSR活動の一環として取り組んできた一連の教育活動における知見やノウハウをより広域的・永続的な活動とするため、一般財団法人LINEみらい財団*(所在地:東京都新宿区、代表理事:奥出直人、江口清貴、以下LINEみらい財団)を2019年12月に設立し、情報モラル教育やプログラミング教育の充実に向けた活動等に取り組んでいます。

*LINEみらい財団HP:https://line-mirai.org/ja/top/

 

本報告書は、LINEみらい財団が、東京都教育委員会の協力のもと、本教材を学校現場で活用した際の効果測定および児童・生徒のネット利用実態把握を目的とした調査(以下、「本調査」という)の結果をまとめたものです。

 

■報告書データ

 
(全86ページ)

 

■調査の意義

 本調査は、毎年実施しており、今回で4回目となります(2019年11月~12月)。情報モラル教育は、道徳や倫理にまつわる人格育成の領域からインターネットの技術やビジネスモデル、法律・セキュリティといった専門分野まで広範に及ぶことから、学校現場での実践にあたっては一部難しさも存在します。そこで、先生方の負担を軽減し、児童・生徒のより良い学びにつなげるために、授業実践の程度・評価および学習効果に関する測定を毎年実施しています。

 本調査を毎年実施することにより、児童・生徒のネット利用実態等の経年の変化が把握でき、学習状況や効果に関しても、結果を積み上げながら、それを土台に新たな検証を行うことができます。

 そして、その結果を次年度以降の本教材の設計や調整に活かしています。

 

・第1回、第2回調査結果 / 第1回 2017年7月、第2回 2017年11月~12月
 https://linecorp.com/ja/csr/newslist/ja/2018/189

・第3回調査結果 / 2018年11月~12月
 https://linecorp.com/ja/csr/newslist/ja/2019/220

 

 

■本調査結果の要点

 本調査で新たに確認・検証をした主な項目は以下となります。その中で特徴的なデータをご紹介いたします。 ※記載ページ数は本報告書のものです。

 

1.学習の効果
①教材の分類と意味付け (P54~58)
②新しい気づきの有無と児童生徒の知識・意識やネットトラブル対策の関係 (P44~53)

2.知識・意識
①児童・生徒のネットリテラシーの程度 (P24~28)
②児童・生徒のネットコミュニケーションや写真利用に対する意識 (P31~37)

3.利用実態
①児童・生徒が週1回以上見たり開いたりするサービス/アプリ ( P19~22)
②児童・生徒が実施しているネットトラブル対策 (P29~30)

 

1.学習の効果

①教材の分類と意味付け (P54~58)

 本教材は、発達段階に応じて様々な教材を掲載していますが、児童・生徒が本教材を使った話し合いをした後の意識に関するアンケート回答内容をベースに、教材の「分類」と「意味付け」の分析を行いました。この分析は、児童・生徒の意識から教材を分類・意味付けすることで、今後の教材開発や学校現場での効果的な授業実践の一助となることを目指すものです。

まず教材の「分類」に関しては、図1左の教材を活用した児童・生徒が、授業実施後の意識に関して図1中央のアンケート項目からあてはまるものを選択します。その回答データを分析(クラスター分析)したところ、中学生と高校生においては、図1右のとおり、それぞれ2つのグループ(中学生→A,B 高校生→C,D)が形成されました。

図1 中高生の回答データから見る教材の分類

 

 次に、教材の2つのグループの「意味付け」について、先行研究で提唱されている情報モラル教育の考え方の枠組みにおける4つの判断観点(「法律違反」「他人への迷惑」「自分への被害」「情報技術」)を用いて検討しました。検討の結果、表1のとおり、中学生においても高校生においても、教材の二つのグループのうちの片方(中学生:B、高校生:C)はおもに「他人への迷惑」の判断観点に関連しており、もう片方(中学生:A、高校生:D)はおもに「自分への被害」の判断観点に関連している、という「意味付け」を行うことができました。これより、中高生は情報モラルに関して、「他人への迷惑」と「自分への被害」の二つの判断観点を有していることが示唆されました(※)。

 以上のとおり、中高生が、「他人への迷惑」および「自分への被害」の二つの判断観点を有している可能性を考慮することは、本教材等の情報モラル教材の開発や運用を効果的に実施するうえで有効と思われます。

 

※中高生がアンケート回答時にこれら二つの判断観点を明確に意識していたとは限りません。無意識のうちに、あたかもこれら二つの判断観点を有しているかのように反応していた可能性も考えられます。

 

表1 教材の意味付け

 

 

②新しい気づきの有無と児童生徒の知識・意識やネットトラブル対策の関係 (P44~53)

 これまでの調査においても「新しい気づき」の有無をひとつの学習効果の指標として用い、学習によって新しい気づきを得ることの効果を示してきました。ただ、一方で、情報モラルが「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」(文部科学省)と定義されているように、昨年度(第3回)の調査結果では、学びによって知識や意識のみならず態度変容をどう促すかという課題も提示されました。そこで、本調査では、児童・生徒の「ネットトラブル対策」という行動面と新しい気付きの有無の関係に関して検証をしました。

 校種別で新しい気づきの有無(「たくさんあった」と「少しあった/なし」)による差が一番大きかったのは中学生で、その中でも最も差が出ているのは「友だちと撮った写真は、了解を得てSNSに掲載している」で、13ptの差があり、次に差が大きかったのは「メッセージは、相手に誤解がないように工夫している」で、11ptの差でした。以上から、特に中学生においては、ネットトラブル対策という行動面においても、新しい気づきを得ることと関係性があることがみてとれます(図2) 。

図2 新しい気づきとネットトラブル対策との関係

 

 

2.知識・意識

①児童・生徒のネットリテラシーの程度 (P24~28)

 「アーティストの歌詞を勝手にネットにのせることは、法律違反だ」という法的知識に関する質問に関して、小学校高学年は約5割が正解する結果となりました(図3)。

図3 ネットリテラシーの程度(歌詞の無断投稿の違法性)

 

 

②児童・生徒のネットコミュニケーションや写真利用に対する意識 (P31~37)

 SNS東京ノートでは以下の5つの内容がカード教材として使用されており、児童・生徒には友だちからされた場合の「いやな」順番を考えさせています。

「すぐに返信がない」
「なかなか会話が終わらない」
「知らないところで自分の話題が出ている」
「話をしている時にケータイ・スマホをさわっている」
「自分が一緒に写っている写真を公開される」

 小中学生では、「自分が一緒に写っている写真を公開される」が、高校生では、「知らないところで自分の話題が出ている」が1位・2位の合計値で最も順位が高く、逆に「すぐに返信がない」が小中高で最も順位が低い結果となりました(中学生データは図4) 。

図4 クラスの友だちからされて「いやだな」と感じること [中学生]

 

 LINEみらい財団では、教員向け研修の際に、参加する教員に児童・生徒が選択する順位を予想してもらいますが、「すぐに返信がない」を最も嫌だと予想する教員がどの研修会でも過半数を超えています。この相反する結果は、データから児童・生徒の利用実態や意識を知ったうえで情報モラルの指導をすることの重要性を示す事象ともいえます。

 

3.利用実態

①児童・生徒が週1回以上見たり開いたりするサービス/アプリ ( P19~22)

 児童・生徒が週1回以上見たり開いたりするサービス/アプリとして、中学生、高校生は学年間において大きな利用差はありませんが、小学生はその利用差が大きい結果となりました。小学生で学年間の利用差が大きいのは「検索サービス/アプリ」であり、学年が上がるにつれて増加しています。特に小学校高学年では、約5割が利用しており、ネットから情報を得ていることがわかりました。

 校種間では、コミュニケーション系サービスで顕著な差が見られました。「SNS」は、中学生では4割強だったのが高校生では8割強となり、約40pt増加しています。LINEなどの「コミュニケーションアプリ」は、中学生になると約40pt増加し、75%が使用している結果となりました(図5)。

図5 利用しているサービス/アプリ

 

②児童・生徒が実施しているネットトラブル対策 (P29~30)

 サービス/アプリの利用に伴い発生しうるトラブルの対策に関しては、コミュニケーションにおいて、小学生、中学生ともに「メッセージは相手に誤解がないように工夫」すると回答した割合が高く、中学生では7割前後が意識する結果となりました。

 写真の掲載においては、「会ったことがない相手に自分の写真を送ることはない」と回答した割合は小学生で約5割、中学生で約7割と高い傾向にあるものの、「友だちと撮った写真は、了解を得て掲載している」と回答したのは中学生においても4割に満たず、友だち間での写真のやりとりでの個人情報やプライバシーへの配慮という点が懸念される結果となりました(図6)。高校生に関しては、「自分のスマホにログイン時のパスワードを設定」すると回答した割合が82%であるものの、「パスワードは同一のものを利用していない」と回答した割合は30%となっており、パスワード設定はするものの、使い回している様子がうかがえる結果となりました。

図6 ネットトラブル対策(小5-6 / 中学生)

 

 

 以上が本調査で新たに確認・検証した部分の要点となります。詳細に関しては、本報告書をご参照ください。

 

 

■調査概要

調査目的
  ・小学校から高校までの児童・生徒の、インターネットの利用実態を把握する
  ・「SNS東京ノート」を活用した授業実施の効果を把握する

調査手法
  郵送調査

調査対象者
  東京都の令和元年度情報モラル推進校等12校の教員/児童・生徒

最終有効回答数
  教員:162s /児童・生徒:4,111s 

質問数
  教員:13問/小1~2:17問/小3~4:19問/小5~6:22問/中学:23問/高校:24問

主な質問項目(生徒)
  ・ケータイ/スマホ保有状況
  ・平日のケータイ/スマホ、ゲーム機利用時間
  ・週に1回以上見たり開いたりしているネット上のサービスやアプリ
  ・クラスの友達からされて「いやだな」と感じること
  ・ネット上に写真を公開したり、メッセージ等で写真を送るときに気をつけていること
  ・写真や動画をネットに公開した経験
  ・家庭におけるネット/ゲーム機利用に関するルールの有無、遵守状況
  ・2019年の4月以降、ネット/ゲーム機を利用して思ったり経験したりしたこと
  ・2019年の4月以降、クラス内で見聞きしたこと
  ・インターネットサービスを使って、嫌な思いや怖い思いをした経験と相談相手
  ・SNS東京ノートを使った授業の受講有無、学習した内容
  ・SNS東京ノートを使った学習による「新しい気づき」の有無
  ・SNS東京ノートについて家族と話をしたか
  ・SNS東京ノートを使った学習に対する感想
  ・SNS東京ノートを使った話し合いをした後の態度 

調査日時
  2019年11月~12月

調査主体
  LINE株式会社 LINEみらい財団 

※2020年4月より、LINE株式会社からLINEみらい財団に調査主体が移管